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Lee-Byung-hun addicted

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コタツにみかん 第1話2006/12

コタツにみかん 第1話

「この寒いのに遠足なんか行きたくないよ・・コタツに入ってゲームしてた方がずっと楽しいのに。」
僕はリュックサックに荷物をつめながらママにそういった。
ママは相変わらずパソコンに向かってニヤニヤしながら何やらブツブツつぶやいている。
(また、あいつか・・)
ママの覗くパソコンの画面の向こうには今日もい・びょんほんがいた。
韓国の映画やドラマに出ている人でママは僕が2年生だった夏休みからそいつにはまっている。
「大好きなことをはまっているって言うのよ。」
ママは嬉しそうに言った。
「心配しなくて大丈夫。ママわたる君にもパパにもはまってるから」
ママは笑ってそういう。
はまってるなら少しは僕の方を向いて話を聞いたらどうだ。
あいつにはまって以来ママは暇さえあればDVDを見たりパソコンを覗いたりしている。
僕はい・びょんほんが嫌いだ。
あいつが我が家に来てから僕にはいいことがない。
ママは「美味しい韓国料理は身体にもいいのよ」
なんて言って僕の嫌いなニンジンやほうれん草が乗ったご飯をよく作るようになったし。
おやつだって前はママのお手製のケーキだったのに最近はスーパーで売ってる安いシュークリームだったりする。
明らかに手抜きだ。
僕はそんなシュークリームをかじりながらあいつのカレンダーを眺める。
テレビの横の壁にすっごい大きいのが貼ってあるから見たくなくても見えちゃうんだ。
(こんなやつのどこがいいんだ・・・。)
僕はカレンダーに向かってアッカンベェ~をした。
「え?わたる。何々?」
ママがパソコンを離れて僕の前に座った。
「なんでもない」
「なんでもないじゃないでしょ。何、遠足楽しいじゃない。ゲームよりずっと。浅草だっけ?変わってるわよね。イマドキの遠足は。どうやって行くの?」
「船に乗るんだって。」
「へぇ~。・・で浅草のどこ行くの?」
「花やしきっていう遊園地に行くんだって。遊園地って言ってもボロボロでイケてないってこうちゃんが言ってた。おじいちゃんと行ったことがあるって。」
「あら、そう。ママあそこ好きよ。パパとデートで行ったこともあるし。あそこのジェットコースターすっごい怖いわよ。」
ママは脅かすように言った。
「ビッグサンダーマウンテンより?」
「うん。ある意味怖いわね。あれより」
「嘘だい!」
「嘘じゃないわよ。ま、乗ってみたらわかるから。明日は天気もよさそうだし楽しみね。」
ママはそういうと僕のほっぺについたカスタードクリームを舐めた。


「あ・・そこのかどで止まってもらえますか」
ビョンホンはタクシーの運転手にそう告げた。
「こんばんは~」
「あれ、お兄ちゃん、久しぶりだね。元気だった?」
「はい。元気でした。ありがとうございます。えっと・・」
「今ならやっぱコタツにみかんだね。」
八百屋のオバサンはにっこりと笑ってみかんを手に取った。
「コタツにみかん?」
「そ。あれ、コタツ知らないの?まさかお兄ちゃん。あれまぁ~イマドキの若い子は仕方ないね。トメばあちゃんちに行ったらわかるから聞いてごらん。また箱ごとかい?」
「ええ・・もちろん」
彼はダンボール一箱のみかんを受け取るとにっこりと笑った。


「揺、ちょっとあんた明日暇?」
「え?久美ちゃん?ちょっと・・すっごい久々に電話してきてやぶから棒に・・ちょっと元気だった?」
「うん。もちろん。私はいっつも元気よ。んでさ。明日暇?」
「暇?って・・・まあ仕事は休みだし・・何も予定は入れてないけど・・」
「やっぱね。あんたは暇だと思った。これで5人目なのよ。こんな年末だし・・」
「ちょっと、久美ちゃん何言ってるの?」
「いやね。急にオーデション入っちゃってさ。バイトの代わり探してるんだけどなかなか見つからなくてさ。」
「あんたまだそんな生活してたの?」
揺は呆れたように言った。
「そうよ。当たり前じゃない。夢は見続けなきゃ」
「そうね。はいはい。わかったわよ。昔から変わらないわね。んで何のバイト?」
「着ぐるみ」
「へ?」
「浅草の花やしきで着ぐるみ着て風船渡すだけだから」
「何だか昔やったような・・・」
「え?揺やったことあるの?じゃ楽勝じゃん。じゃ任せたから。明日8:30に花やしきの事務所ね。今度おごるから。あ、明日の日当はあげるから。じゃ、よろしくね」
「え?もしもし。ちょっとまだやるとは言ってない・・・」
「・・・・・・」
「ちょっと勘弁してよ。何でこんな年末にバイトするわけよ。全く・・日当あげるからって当たり前じゃない。全く相変わらずだな・・・」
揺は苦笑いをした。
揺と久美は以前アメリカにいた時に知り合った。
久美は自由奔放な性格で一応舞台俳優を目指している。
年に数回忘れた頃に電話をしてきてはこの調子でいつも揺はあっけにとられてばかりだった。
でも、揺はそんな彼女が何故か好きでいつもこんな感じに面倒をみるはめになる。
「しょうがないなぁ・・着ぐるみね。そういえば・・思い出すな。去年のクリスマスイブ・・・」
揺は窓を開け冷たい空気を吸い込むと目を閉じた。
そう・・・去年のクリスマスイブ・・彼はオオカミで私はウサギだったっけ。
あれはあれで楽しかったな・・。
ビョンホンssi・・大丈夫だよね。
窓に腰掛けさっきまで開いていたPCの画面を見る。
クリックするとスクリーンセイバーから画面に切り替わった。
「夏物語」上映館縮小。早くも打ち切る映画館続出。興行的には惨敗の見込み。
そんな文字が画面に躍る。
数日前から報道されている彼の新作についての記事はどれも厳しいものだった。
「・・・」揺はため息をついた。
韓国で映画を観た時から頭の片隅に不安がよぎっていた。
韓国で興行成績が稼げる映画とは一線を画している気がした。
とても好きだしとてもいい映画だしとても素敵な作品だけれど・・・難しいかもしれない。
正直そう思った。
でも、それはきっと撮った本人が一番わかっている・・揺はそう思っていた。
朝、彼に電話をかけるときは一日の始まりだから「大丈夫?」なんて聞けない。
元気よく起こして何事もなかったように笑って送り出す。
そう決めていた。
彼だってそんなそぶりは全く見せない。
いつもどおり揺をからかってゲラゲラ笑って・・・。
「大丈夫だよね・・。」
揺はそうつぶやくと携帯を手に持った。
なんて声をかけたらいいだろう・・・。ただ抱きしめてあげたい。
窓辺に腰掛け携帯を握り締める。
彼は今頃何をしているだろう・・・。
ふと我に帰る。
「ううう・・・寒い。もう閉めよう」
窓枠に手をかけふと門の外を見ると一台のタクシーが止まった。
「?」
降りてきたのは大きなみかん箱を抱えたビョンホンだった。
「うそ。なんで来るのよ」






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